「NotebookLM(ノートブックエルエム)のEPUB対応で、本をまるごとデータベース化」。そう題された記事を読んで、私もわくわくしました。でも、わくわくしたまま信じてしまっていいのか。今回は、このニュースが本当に正しいのか、タイトルは中身に見合っているのかを、一つずつ確かめていきます。
検証の対象にしたのは、ライフハッカー・ジャパンが2026年6月28日に公開した記事「待ってました!NotebookLMのEPUB対応で、本をまるごとデータベース化」です。これは米国のテック系メディアMakeUseOf(メイク・ユース・オブ)の記事を翻訳・転載したもので、NotebookLMという資料分析AIが電子書籍の形式に新しく対応した、という内容でした。
確認できたこと・できなかったこと
✅ 確認できた事実
- NotebookLMがEPUBファイルのアップロードに対応したのは事実です(出典:Google Workspace公式アップデート告知 ※英語サイト)
- EPUBに対応したことで、音声・動画解説、スライド、マインドマップ、学習ガイドなど既存の機能がそのまま書籍にも使えます(出典:Phandroid ※英語サイト)
- EPUBはPDFと違い、章や脚注などの「文書の構造」を保てる形式です(出典:Android Authority ※英語サイト)
- 市販のKindle本など、DRM(コピー防止技術)で保護された電子書籍は読み込めません(出典:TextMuncher ※英語サイト)
- 1ソースあたり50万語または200MBという容量上限があります(出典:同上)
❓ 注意が必要な点
- ライフハッカー記事は「先日対応した」と書いていますが、実際の公式ロールアウトは2026年3月9〜10日でした(理由:翻訳元の感覚が3月時点のものとみられるため)
- 「本をまるごとデータベース化」というタイトルは、手持ちの市販電子書籍すべてが対象、という意味ではありません(理由:DRM保護された本は読み込めないため)
NotebookLMのEPUB対応とは何が起きたのか
まず、検証対象の記事が何を言っているのかを整理します。NotebookLMは、資料を読み込ませると、その中身だけをもとに要約したり質問に答えたりしてくれるGoogleのAIツールです。これまで本を読み込ませるにはPDFに変換するしかありませんでした。今回、そのNotebookLMがEPUBという電子書籍の形式をそのまま受け付けるようになった、というのがニュースの核です。

この対応がいつ始まったのかを確かめました。Googleの公式告知を見ると、EPUB対応が発表されたのは2026年3月です。NotebookLMの公式X(旧Twitter)アカウントも3月9日に「最も要望の多かった機能の一つ」としてEPUBアップロード対応を告知しています。検証対象のライフハッカー記事は6月28日付で「先日」と書いていますが、機能そのものは3月の時点で公開されていました。これは記事が誤っているというより、翻訳元のMakeUseOfが3月に書いた「先日」という感覚が、翻訳・転載のタイミングでそのまま6月に出た結果とみられます。機能が今も使えること自体は変わりません。
EPUBとは何の略で、PDFと何が違うのか
ここで、記事を読む多くの人がつまずくであろう「EPUBって何?」を先に片づけておきます。実はこの記事を書くきっかけになったのも、ある読者から寄せられた「これってPDFのことですか?」という素朴な問いでした。同じ疑問を持つ方は少なくないはずなので、丁寧に説明します。
📖 EPUB(イーパブ):Electronic Publication(電子の出版物)の略です。名前のとおり、本を電子的に配布するために作られた電子書籍向けのファイル形式です。KoboやApple Booksなど多くの電子書籍サービスが内部で使っています。
📄 PDF(ピーディーエフ):Portable Document Format(持ち運べる文書形式)の略です。紙の見た目をそのまま固めたような形式で、どの画面で開いてもレイアウトが変わりません。契約書やチラシなど、見た目を崩したくない書類に向いています。
「PUB」をパブリック(公共の)と勘違いする方も多いのですが、ここはPublication(出版物)です。Public(公共の)とPublication(出版物)は語源が同じ親戚のような単語なので紛らわしいのですが、別の言葉です。EPUBは「電子の、みんなに公開されたもの」ではなく「電子の、出版物」。あくまで本のための形式、という意味になります。
では、なぜこの形式の違いがAIにとって重要なのでしょうか。PDFは見た目こそ整っていますが、中身のデータとしては「文字が置いてあるだけ」の状態に近いのです。だから「第12章」と印刷されていても、AIにとっては本文中にたまたまある文字の並びにしか見えず、そこが新しい章の始まりだと理解できません。脚注なのか本文なのか、ページ番号なのか文章の一部なのかも区別がつきにくくなります。
一方EPUBは、もともと「ここは章タイトル」「ここは脚注」「ここは本文」という区切りの情報を持ったまま保存されています。そのためAIに読み込ませると「第11章はここからここまで」と正しく認識でき、要約や抽出の精度が上がります。検証対象の記事が「精度が大幅に向上した」と書いていたのは、この構造の違いに基づくもので、技術的な説明としては妥当だと判断しました。
NotebookLMで教科書や学習資料を扱う使い方については、以前に検証した記事もあります。あわせて読むと、今回のEPUB対応がなぜ学習用途で効いてくるのかが見えてきます。NotebookLMに教科書を読み込ませる使い方の検証記事はこちら。
各ソースはどう伝えているか
一つのメディアだけを見て判断すると、その記事の偏りや誇張に気づけません。そこで、日本語の検証対象記事に加えて、英語圏の複数のメディアとGoogleの公式発表を突き合わせました。
Googleの公式発表が伝えていること
Google Workspaceの公式アップデート告知では、すべてのNotebookLMユーザーがEPUBをソースとしてアップロードできるようになった、と明記されています。同じ告知には、スライドの修正機能、新しいインフォグラフィックのスタイル、フラッシュカードやクイズの改善なども並んでいて、EPUB対応はその中の一つという位置づけでした。つまり、検証対象の記事が言う「ありとあらゆる機能が恩恵を受ける」という表現は、機能の一覧と照らしても大きく外れてはいません。
英語圏メディアが伝えていること
Android Authority(アンドロイド・オーソリティ、米国のテック系メディア)は、EPUB対応によってPDFへの変換なしに小説や教科書を読み込めるようになった、と伝えています。Phandroid(ファンドロイド、同じく米国のテック系メディア)も、EPUBがe-bookの標準形式であり、これまで余計な手間を強いられていた人にとって日々の煩わしさが一つ消えた、と評価していました。各メディアの論調はおおむね一致していて、「派手な新機能ではないが、本を扱う人には実用的で嬉しい改善」という受け止めです。検証対象のライフハッカー記事の熱量も、この範囲に収まっていると見ていいでしょう。
📌 ここで一つ補足です:今回は真偽が激しく争われるニュースではなく、公式発表で裏が取れる製品アップデートの話です。そのため、いつものようにX上の論争やSNSの声をGrokで収集する独立検証は行っていません。検証は私(ツールとしてはClaudeを使っています)の単独で進め、その代わり公式発表と複数の英語圏メディアで事実を固めました。この点は記事末尾の評価表でも正直に開示します。
確認できなかったこと・注意したい点
ここがこの検証で一番大事な部分です。タイトルの「本をまるごとデータベース化」という言葉を、文字どおり「手持ちの電子書籍を全部放り込める」と受け取ると、現実とずれます。
Amazonで買った本は、そのままでは読み込めない
最大の落とし穴がDRMです。Amazonで購入したKindle本は、Amazon独自の形式でDRMがかけられた状態で手元に届きます。NotebookLMがEPUBに対応していても、このDRMで保護されたKindleのファイルは読み込めません。Kindleに限らず、Apple BooksやKoboなど多くの電子書籍ストアが同じようにDRMで保護しています。検証対象の記事もこの点はきちんと注意点として書いていて、そこは誠実だと感じました。ただ、タイトルだけを見た読者には伝わりにくい部分です。
🔒 DRM(ディーアールエム):Digital Rights Management(デジタル著作権管理)の略です。違法コピーを防ぐために電子書籍にかけられている鍵のような技術です。買った本はお店のアプリの中でだけ開ける状態で渡され、自由にファイルとして取り出すことはできません。NotebookLMはこの鍵を開ける機能を持っていないため、買った本をそのまま放り込むことはできない、というわけです。
スマホアプリでは一部の機能が使えない
もう一つ、検証対象の記事が挙げていた注意点があります。NotebookLMのスマホ・タブレットのアプリ版では、マインドマップなどStudio機能の一部が使えず、ウェブ版に限られるというものです。これは記事の筆者自身の利用体験として書かれており、私の側で全機種・全環境を再現して確かめることはできていません。アプリの仕様は時期によって変わる可能性もあるので、「現時点ではそういう声がある」という受け止めにとどめます。
では、何が読み込めるのか(合法なEPUBの入手先)
「買った本がダメなら、いったい何を読み込ませればいいの?」。これも読者から実際に出た疑問です。答えははっきりしていて、合法に使えるEPUBの入手ルートは大きく三つあります。

① 著作権の切れた古典
一つ目は、著作権が切れてパブリックドメイン(誰でも自由に使える状態)になった作品です。日本語なら青空文庫が有名で、夏目漱石や太宰治などの名作が無料で公開されています。青空文庫の作品をきれいなEPUBファイルとして手に入れたいときは、BOOK☆WALKERが青空文庫をEPUB形式で無料配信し、ファイルそのものもダウンロードできるようにしています(会員登録が必要)。英語の古典なら、世界最古のデジタル図書館であるProject Gutenberg ※英語サイトが約7万8000点をEPUBで配布しています。その本を読みやすく整え直したStandard Ebooks ※英語サイトも、AIに読ませる素材として質が高くおすすめです。
② 公的機関や大学が公開する資料・学術書
二つ目は、研究機関や大学が無料で公開しているオープンアクセスの資料です。OAPEN ※英語サイトは査読済みの学術書を5000点以上、無料で公開しています。学び直しや調べ物の素材として、こうした信頼性の高い資料はとても相性がいいです。日本語の古い資料なら国立国会図書館デジタルコレクションも役立ちます。
③ 自分の文書を変換した自作EPUB
そして三つ目が、実はこの機能の本命だと私が考えているものです。自分のブログ記事、メモ、Word文書などを、無料ソフトを使ってEPUBに変換し、自分専用の一冊として読み込ませる使い方です。Calibre ※英語サイト(電子書籍管理ソフト)やPandoc ※英語サイト(文書変換ソフト)を使えば、Word・Markdown・HTML・PDFなどをEPUBに変換できます。散らかった自分の知識を、検索できる一冊の参考書に変える。仕事の引き継ぎ資料づくりや、自分の考えの棚卸しに直結します。英語圏の解説でも、NotebookLMのEPUB機能の本当の使いどころは市販の本を読むことより、自分で作った資料をEPUBにまとめることにある、という見方が紹介されていました。
紙の資料や古い書類を手元に持っている場合は、まず文字データに変換するところからになります。無料のOCR(文字認識)ツールの精度を検証した記事もあるので、自作EPUBの材料づくりの参考にしてください。無料OCRツール「NDLOCR Lite」の精度を検証した記事はこちら。
読者への考察ポイント
今回のニュースは、嬉しいかどうかが人によってはっきり分かれる種類のものだと思います。判断の軸はシンプルで、「あなたがDRMのかかっていないEPUBを持っているか、または自分の文書をEPUBに変換してまで使いたい場面があるか」です。
もし「買ったKindle本をまるごと放り込んで楽をしたい」と期待していたなら、今のところその用途には応えてくれません。逆に、「自分の書いたものを一括でAIに覚えさせて相談相手にしたい」「無料の古典や学術書を使って学び直したい」という気持ちがあるなら、これはかなり刺さる機能です。タイトルの「本をまるごとデータベース化」は、正確には「DRMのない本や自作の資料を、まるごとデータベース化」と読み替えるのが実態に近い、というのが私の結論です。
もう一つ、情報との付き合い方として考えてほしいことがあります。今回の記事は内容そのものは正しかったのですが、「先日」という一語が、実際には3ヶ月前の出来事を指していました。翻訳・転載された記事では、こうした時間の感覚がずれて伝わることがあります。日付を一つ確かめるだけで、ニュースの解像度はぐっと上がります。これは今回に限らず、あらゆるニュースを読むときに効く習慣だと思います。
AIに資料を読ませて何かを書かせる・調べさせるという使い方そのものに関心がある方は、AIが生成する文章の質をどう見極めるかについて検証した記事もあわせてどうぞ。AIの文章規範スキルを検証した記事はこちら。
まとめ
検証の結論です。NotebookLMがEPUBに対応したという核心は事実で、タイトルも大筋では中身に見合っています。EPUBがPDFより本の構造を保てるため分析精度が上がる、という技術的な説明も妥当でした。一方で、「本をまるごと」という言葉には、DRMで保護された市販の電子書籍は対象外、という大きな但し書きが隠れています。そして記事が言う「先日」は、実際には2026年3月の出来事でした。
信じていいか、という最初の問いへの答えは、「核心は信じていい。ただし期待のかけどころを間違えないで」です。買った本が全部入る魔法ではなく、合法なEPUBと自作資料のための、地味だけれど確かな便利機能。そう捉えておくのが、いちばん裏切られない読み方だと思います。
NotebookLMそのものをもっと使い込んでみたい方には、機能を体系的に解説した書籍も出ています。EPUB対応はあくまで数ある機能の一つなので、全体像をつかんでおくと今回の話もより腑に落ちると思います。
私たちはニュースの真実を保証しません。ただし、真実を追求し、何を確認できて、何を確認できなかったか、そのプロセスをすべて開示します。
多角検証スコア(Claude × Grok 独立評価)
今回は公式発表で事実が確定できる製品アップデートのため、X・SNS上の信号を集めるGrokの独立検証は実施していません。Grok列は空欄を埋めず「—(未実施)」と記し、理由を正直に開示します。Claude評価のみで、各軸を判断しました。
| 検証軸 | Claude評価 | Grok評価 |
|---|---|---|
| 1. メディア報道(資金源・国籍が異なる独立したもの) | A | —(未実施) |
| 2. 一般人の投稿(現地目撃者など) | B | —(未実施) |
| 3. 公式文書(政府・企業IR等) | A | —(未実施) |
| 4. 人間心理的分析 | B | —(未実施) |
| 5. 統計データ | B | —(未実施) |
| 6. 歴史的文脈 | B | —(未実施) |
| 7. 地理的・地政学的文脈 | C | —(未実施) |
| 8. 宗教的・文化的背景 | C | —(未実施) |
| 9. 経済的利害関係 | B | —(未実施) |
| 10. 時系列的整合性 | A | —(未実施) |
評価基準:A=複数の独立したソースで確認済み矛盾なし B=一部確認できたが全ては確認できていない C=確認できたソースと矛盾するソースが混在 D=ほぼ確認できていないソース不足 E=確認不可または信頼できるソースなし
補足です。7と8(地理・地政学/宗教・文化)をCにしたのは、矛盾するソースがあったからではなく、このトピックにこれらの軸がほとんど関係しないためです。本来この製品トピックでは評価対象になりにくい軸であることを、正直に書き添えておきます。

