スマホ農場という言葉が、この数日でSNSを駆けめぐりました。大量のスマホを並べてSNSの表示回数やいいねを人工的に水増しする、という仕組みです。私たちはこの話題を多角的に検証し、確認できたことと確認できなかったことを分けてお見せします。
きっかけは、ねずみさんというYouTube投稿者の動画でした。「スマホ農場を使ってるのはコイツらしかいない!」というタイトルで、2026年6月30日に投稿されています。ねずみさんのチャンネルは登録者が46万人を超える規模で、この動画も公開後すぐに広がりました(動画はこちら)。動画はTBS「報道特集」がスマホ農場を特集したことを受けて、その仕組みと問題点を解説する内容です。
確認できたこと・できなかったこと
✅ 確認できた事実
- スマホ農場を最初に大きく報じたのは朝日新聞で、2026年4月28日の朝刊1面だった(出典:朝日新聞(Yahoo!ニュース))
- TBS「報道特集」は2026年6月27日に「SNS閲覧数まで操る『農場』とは?」を放送。「テスト」とだけ書いた新規投稿が約6分で100万インプレッションに達する実験を放送した(出典:TBS NEWS DIG(Yahoo!ニュース))
- 選挙期間中のSNS偽情報対策を盛り込んだ公職選挙法・情報流通プラットフォーム対処法の改正案が、2026年6月26日に衆院を通過した。罰則の新設は見送られた(出典:時事通信)
- ステルスマーケティング規制(景品表示法)の対象は「事業者が自分の商品・サービスについて行う表示」で、規制を受けるのは広告主である事業者(出典:消費者庁)
- クリックファーム(スマホ農場)による広告不正は世界的な現象で、デジタル広告費の被害は2023年で約840億ドルと推計され、被害の大きい上位5か国に日本が含まれる(出典:Juniper Research ※英語サイト)
❓ 現時点で確認できていないこと
- 施設の規模。朝日は「1,000台超」、TBSは「基板約10万枚・茨城県内に4施設」と報じており、数字に大きな開きがある(理由:同じ施設を指している可能性が高いが、数字の出所を独立に確認できない)
- 運営者が選挙の依頼を受けているかどうか。朝日には「断っている」、TBSには「複数受けたがAIで弾いている」という食い違う証言がある(理由:取材時期の違いか、証言の変化か、判別できない)
- 警察・総務省・公正取引委員会など公的機関による施設の実地確認や摘発の事実(理由:報道以外の一次資料が見つからない)
- スマホ農場が実際の選挙結果や世論をどれだけ動かしたか(理由:定量的なデータが存在しない)
何が起きたか
まず、スマホ農場そのものについて整理します。これは、大量のスマートフォン(または、スマホの中身である基板だけ)を一か所に並べて自動で操作し、SNSの表示回数・いいね・再生回数を人工的に増やす仕組みです。海外ではクリックファームと呼ばれ、以前から知られていました。

日本で最初に報じたのは朝日新聞だった
ねずみさんの動画はTBSの報道特集を起点にしていますが、日本のスマホ農場を最初に大きく報じたのは、実はTBSではありません。朝日新聞が2026年4月28日の朝刊1面で報じたのが先でした。取材班が運営グループの一員を名乗る男性に接触し、記者が自分のXアカウントを伝えると、1分もしないうちに投稿の表示回数が8千件近く跳ね上がった、と書かれています。
この男性は「18歳で都内の高校3年生」を自称し、茨城県つくば市周辺で1,000台を超えるスマホを冷却液に浸して24時間稼働させていると説明しました。YouTube再生1,000回あたりの報酬は175〜750円ほど。ここで注目したいのは、朝日の取材に対して、この男性は「選挙関連の依頼は断っている」と語っていた点です。あとで触れますが、ここがTBSの報道と食い違います。
TBSの実験:「テスト」だけの投稿が6分で100万回
TBS報道特集は6月27日、この問題をさらに踏み込んで特集しました。番組では、その日新しく作ったXアカウントに「テスト」とだけ投稿し、その表示回数を農場に引き上げてもらう実験をしています。結果は、約6分で100万インプレッション。ねずみさんが動画で言っていた「6分で100万回」という数字は、ねずみさん独自の主張ではなく、このTBSの実験結果を指しています。
取材に応じたのは「農場運営者の代理人」だという18歳の理系大学生。TBSによれば、施設は電波を遮断する二重扉のシールドルームで、基板は約10万枚、同様の施設が茨城県内に4つあり、費用は数十億円規模。年間利益は約45億円と説明したと報じられています。
各ソースはどう伝えているか
この話題は、報じる側と受け取る側で温度がかなり違いました。ここが今回いちばん丁寧に見たかったところです。
朝日とTBSで食い違う「選挙依頼」の証言
先ほど予告した食い違いです。同じ「18歳・都内・理系」という人物像でありながら、選挙依頼への答えが逆になっています。
📌 ここが食い違っています
- 朝日新聞(4月):運営者を名乗る男性は「選挙関連の依頼は断っている」と証言
- TBS報道特集(6月):代理人は「選挙候補者陣営から複数の依頼があり、AIでフィルタリングしている」と説明
これは完全な矛盾とまでは言えないかもしれません。取材の時期が2か月ずれているので、その間に対応が変わった可能性もあります。ただ、少なくとも「運営者は選挙に一切関わっていない」とも「がっつり関わっている」とも、どちらにも断定できないというのが正直なところです。ここは平らにならさず、食い違ったまま置いておきます。
報道への「お前が言うな」という反発
SNS上では、この特集を評価する声(「スマホ農場という言葉が広まった意義は大きい」)がある一方で、報じたメディア自身への強い反発も目立ちました。「印象操作を長年やってきたテレビや新聞こそ、数字を操作しているのではないか」という趣旨の批判です。興味深いことに、この「お前が言うな」の矛先は、TBSだけでなく朝日新聞にも向かっています。新聞の発行部数の水増しと同じではないか、という指摘です。
もう一つ、政治的な文脈での批判もありました。番組が中国のSNS部隊とされる映像を使ったことで、「特定の政権への誹謗中傷疑惑と結びつけて錯覚させるミスリードだ」という見方です。ただ、私たちが確認した範囲では、番組が特定の政権を名指しで標的にしたという証拠は見当たりませんでした。ここはネット上の解釈が先行している部分だと思います。
現地・SNSの声
正直にお伝えすると、スマホ農場の施設を実際に自分の目で見た、という一般の人の写真や動画つきの証言は、今回見つけられませんでした。X上の投稿のほとんどは、朝日やTBSの報道への反応です。仕組みがグレー、あるいは違法の可能性があるビジネスなので、利用した・依頼したと公言する人がほとんどいないのは、考えてみれば自然なことかもしれません。
ねずみさんの主張を、事実と推論に分けてみる
ねずみさんの動画には、性質の違う主張が地続きに語られています。確かめられる事実と、そこから導かれた結論を分けて見ていくと、動画の輪郭がはっきりします。
「誰の得にもならない」という経済の話
ねずみさんは、こう説明します。スマホ農場がYouTube動画を再生しても、その広告を見ているのはAIであって人間ではない。だから車のCMが流れても車は売れず、広告を出した企業が損をする。企業はやがて気づいて広告を引き上げるから、YouTuberも損をする。つまり誰の得にもならない仕組みだ、と。

広告主の目線に立てば、この指摘はその通りです。実際、これは世界的に「アドフラウド(広告不正)」と呼ばれる深刻な問題で、無駄になる広告費は2023年時点で世界全体で約840億ドル、デジタル広告費のおよそ2割にのぼると推計されています。しかも被害の大きい上位5か国に日本は入っています。ねずみさんの「広告主が損をする」という部分は、国際的なデータでもしっかり裏づけられます。
ただ、「誰の得にもならない」という全体のまとめについては、少し補足が要ります。ここは慎重に見たいところなんです。
🏪 アドフラウド(広告不正):広告のクリックや表示を人工的に水増しして、広告費をだまし取ったり、数字を偽ったりする行為のこと。要するに「見てもいない広告を、見たことにする」仕組みです。
🧾 実は得をする人がいる:海外の広告不正の研究によれば、クリックファームには明確な受益者がいます。①不正な広告収入を受け取るサイト運営者、②ライバル企業の広告予算をわざと使い果たさせたい競合、③「人気があるように見せる」という演出を買いたい依頼者。つまり「誰の得にもならない」のではなく、「広告主は損をするが、実行業者と依頼者は得をする」構造なんです。
おもしろいのは、ねずみさん自身も動画の中で「得をするのは農場側と、農場に依頼している人たちだけでしょ」と、ちゃんと言っている点です。つまりねずみさんは受益者の存在に気づいています。ただ、動画全体の締めが「誰の得にもならない」という強い言葉に寄ってしまったので、そこだけを取り出すと国際的な実態とはずれる、ということです。
「政治利用には規制がかからない」という法律の話
もう一つ、ねずみさんは法律の話をしています。動画の中でAI(ChatGPT)に質問した結果として、化粧品屋がスマホ農場にコメントやいいねを頼むと、ステマ規制に引っかかる可能性が高い、と紹介しています。これは正確です。ステマ規制(景品表示法)は、事業者が自分の商品・サービスを、広告だと分からせずに宣伝する行為を禁じるものだからです。

そのうえでねずみさんは、こう指摘します。政治家を持ち上げるコメントやいいねには、このステマ規制がかからない、と。なぜなら、政治家への応援は「商品・サービスの取引」ではないので、景品表示法の対象にならないからです。私が消費者庁の説明と条文を確認した限り、この法律の建て付けについての指摘は、おおむね正確でした。もちろん選挙期間中に投票を依頼すれば公職選挙法に触れますが、選挙期間外に単に印象を良くするコメントやいいねをする分には、ステマ規制という枠組みでは捕まえられない、という指摘です。
陰謀論的だと片づけられがちな語り口の動画でも、法律の核心部分は的を射ている。ここは私自身、検証していて姿勢を正されたところでした。発信者の雰囲気で事実関係まで雑に否定してしまわないよう、条文まで戻って確かめました。
「改正案にスマホ農場の話は出てこない」について
ねずみさんは、選挙のSNS対策の改正案が通ったのに「スマホ農場の話なんか出てこない」と批判しています。この改正案は2026年6月26日に衆院を通過しました。内容を見ると、利用者に偽情報で選挙の公正を害さない責務を課し、AI生成の動画・画像には注意表示を義務づけ、SNS事業者には偽情報の悪影響を減らす措置を求める、というものです。罰則の新設は見送られました。
確かに、条文に「スマホ農場」という言葉は出てきません。ただ、英語圏メディアの報道では、事業者に求める対策の中に「利用者への報酬支払いの停止」が含まれるという説明もありました。これがスマホ農場のような数値水増しビジネスを念頭に置いたものなのかは、条文レベルでは読み切れませんでした。ここは「スマホ農場を名指しした規制はないが、関連しうる条項があるかもしれない」という、グレーな状態だと考えています。
確認できなかったこと・不明な点
ここが、この記事でいちばん大事なところです。今回の検証で、いちばんの弱点だと感じたのは、報道以外の裏づけがほとんどないことでした。
スマホ農場の存在は、朝日新聞とTBSという資金源の異なる2つのメディアが、それぞれ茨城県つくば市周辺を取材して報じています。この点で、まったくの作り話ではない可能性は高いと考えています。ただ、警察や総務省、公正取引委員会といった公的機関が、施設の存在や規模を確認した、あるいは摘発した、という一次資料は一つも見つかりませんでした。施設の規模も、朝日の「1,000台超」とTBSの「基板10万枚×4施設」では、桁が違います。同じ場所を指しているのか、別の説明なのかも、私たちには確定できませんでした。
そして、スマホ農場が実際の選挙結果や世論をどれだけ動かしたのか。これを示すデータは、どこにもありませんでした。「数字を作れる」ことと「世論が実際に動いた」ことは、別の話です。ここを混同しないよう、気をつけたいと思います。
背景・文脈
スマホ農場は、日本だけの新しい現象ではありません。クリックファームという名前で、中国や東南アジアを中心に10年以上前から知られてきました。朝日新聞の報道によれば、こうした拠点はサイバー攻撃や詐欺に使われた疑いで、米国やウクライナ、バルト三国のラトビアなどで相次いで摘発されています。日本の事例も、この世界的なパターンの中に置いてみると、特別に突飛な話ではないことが分かります。
ここに、あまり日本語で語られていない角度があります。先ほど触れた広告不正の国際統計では、被害の大きい上位5か国に日本が名を連ねています。にもかかわらず、日本語の報道はスマホ農場を「選挙が歪む」という政治の文脈で語ることが多く、「広告市場がすでに大きな被害を受けている経済問題」として語る視点は、まだ少ないように見えます。世界がアドフラウドを数百億ドル規模の経済問題として扱っているのに対し、日本の議論はまだ入り口にいる、という差があるのかもしれません。
関連する検証として、SNSの数値と世論のズレという意味では高市内閣の支持率が調査ごとに食い違った件の検証も参考になるかと思います。また、YouTubeの政治系動画をどう検証するかという点では奥野卓志さん・安藤裕さんの対談動画の検証や、深田萌絵さん・池田としえさんの通貨をめぐる動画の検証で、私たちが同じように事実と解釈を分けて確かめています。
読者への考察ポイント
今回の検証で、私は自分の評価を2か所、途中で下げました。SNSの反応と統計データという2つの軸で、最初は「もう少し確認できている」と考えていたのですが、独立して検証してもらったGrokの指摘を受けて再検証したところ、私の見立てが甘かったと分かったんです。その経緯は、次の評価表の下で正直にお話しします。
皆さんに考えていただきたいのは、こういうことです。「数字が作れる」という事実は、複数のメディアの取材でかなり確からしい。でも「その数字が世論を実際に動かした」かどうかは、誰も証明できていない。私たちはつい、この2つを一続きの話として受け取ってしまいます。バズっている投稿を見たとき、その数字が本物かどうかを一度立ち止まって考える。それだけでも、情報空間との付き合い方は少し変わるのかなと思います。
そしてもう一つ。報じる側の過去や立場が信用ならないからといって、報じられた中身までぜんぶ嘘だと決めつけるのも、逆に、信用できるメディアが言うのだから中身も全部正しいと決めつけるのも、どちらも危うい。発信者への評価と、事実そのものの検証は、切り離して考える。今回のねずみさんの動画も、まさにそういう題材でした。
まとめ
スマホ農場は、複数のメディアが取材した限りでは実在する可能性が高く、SNSの数字を人工的に作れることも確からしい。ねずみさんの法律の指摘は正確で、経済の指摘も「広告主が損をする」部分は正しい。一方で「誰の得にもならない」というまとめは、実行業者と依頼者という受益者を見落としています。そして最大の弱点は、公的機関による裏づけと、世論への実際の影響を示すデータが、どちらも見つからないことです。
私たちはこの記事で、確認できたことと確認できなかったことを分けてお見せしました。そのうえで、私自身が途中で判断を訂正した経緯も隠さず残しています。数字の向こう側にある「本当かどうか」を、皆さん自身が判断する材料になればうれしいです。
私たちはニュースの真実を保証しません。ただし、真実を追求し、何を確認できて、何を確認できなかったか、そのプロセスをすべて開示します。
多角検証スコア(Claude × Grok 独立評価)
| 検証軸 | Claude評価 | Grok評価 |
|---|---|---|
| 1. メディア報道(資金源・国籍が異なる独立したもの) | B | B |
| 2. 一般人の投稿(現地目撃者など) | D | D |
| 3. 公式文書(政府・企業IR等) | D | D |
| 4. 人間心理的分析 | B | B |
| 5. 統計データ | D | D |
| 6. 歴史的文脈 | A | A |
| 7. 地理的・地政学的文脈 | C | C |
| 8. 宗教的・文化的背景 | E | E |
| 9. 経済的利害関係 | B | B |
| 10. 時系列的整合性 | A | A |
評価基準:A=複数の独立したソースで確認済み矛盾なし B=一部確認できたが全ては確認できていない C=確認できたソースと矛盾するソースが混在 D=ほぼ確認できていないソース不足 E=確認不可または信頼できるソースなし
評価が食い違った軸について
最初の独立評価では、ClaudeとGrokの間で2つの軸が食い違いました。②一般人の投稿と⑤統計データで、どちらもClaudeがGrokより1段甘い評価(C)を付けていました。振り返ると、Grokの評価のほうが妥当でした。
②については、Claudeは「報道への賛否が混在している」ことを理由にCとしましたが、そもそもX上の投稿は報道への反応がほとんどで、現地を直接見た一般人の一次証言は存在しませんでした。「混在」と呼べるほどの独立した目撃情報がない以上、D(ほぼ確認できていない)が正確です。Grokの指摘を受けてDに訂正しました。
⑤については、Claudeは広告不正全体の国際統計を根拠にCとしました。しかしこの軸が問うているのはスマホ農場そのものの統計であって、隣接する広告不正全体の統計で甘くするのは筋が違います。スマホ農場に限った統計は存在しないため、こちらもDに訂正しました。広告不正全体の統計は、背景・文脈のほうで活かしています。
自分の評価にも「本当に?」を向ける。今回はそれがそのまま2か所の訂正になりました。この経緯も含めて、検証のプロセスとしてお見せします。


